「○○しないとHACCPはできない」という誤解①~「HACCP対応工場」は存在しない

更新日時:2025.2.13

 なぜかHACCPの話題になると、「○○しないとHACCPはできない」と表現を耳にする機会は多いように思います。今回から数回に分けて、以下のようなフレーズでお話を進めてみたいと思います。

 いずれも、HACCPやHACCP制度化について、正しく理解すれば、おおむね誤解であるとご理解いただけると思います。
1) HACCP対応の施設・設備がないとHACCPはできない
2) 連続モニタリングができないとHACCPはできない
3) 一般衛生管理ができないとHACCPができない
4) CCPがないとHACCPにならない
5) 5S・7Sがないと一般衛生管理ができない

6) 加熱と金探をCCPにしないとHACCPができない
 

 事業者の方は、きちんとHACCPを勉強する機会があるので、こうした安易なフレーズには、そうそう騙されません。しかし、HACCPの勉強はしないのに、社会への影響力が大きい職種があります。これらは報道関係者や広告関係者が好むフレーズです。

 

1) HACCP対応の施設・設備がないとHACCPはできない
 ほとんどの報道関係者や広告関係者にとって、文字数が少なく、インパクトがある表現をしたがります。90年代、HACCPが日本に出回り始めた頃、多くの施設・設備関係者が「HACC対応工場」「HACCP対応の施設・設備」といった言葉を浸透させました。

 
 当初は「衛生管理がしやすい設計、洗浄がしやすい設計(⇒サニタリーデザインと言います)」といった意味合いだったのでしょう。水を浸透させない(微生物の温床にならない)素材、分解可能で洗浄がしやすい構造、水分が滞留する箇所(「デッドポイント」「盲管」といった表現をすることもあります)がない設計など、それらは間違いなくHACCP(の土台となる一般衛生管理をしやすくすることに)対応した施設・設備でしょう。

 
 それを報道関係者や広告関係者、広報関係者などが、安易に「HACCP対応の施設・設備がないとHACCPができない」と表現しました。広報や報道では、文字数が少なくインパクトがあるフレーズが好まれます。そうした中で、「HACCP対応工場」「HACCP対応の施設・設備」という表現が生み出されました。日本で「ハード偏重のHACCP」「ハードが完璧でないと、HACCPはできない」という信仰が誕生しました。HACCP支援法(食品の製造過程の管理の高度化に関する臨時措置法、令和5年6月30日失効)も、ハードの新設や改修をしやすくしたことから。「HACCP対応工場」との相性は良かったのでしょう。
 一部では「HACCPはハードではなくソフト」「HACCP対応という概念は存在しない」という“正しい声”もありましたが、ある程度の割合のヒトが「HACCP=ハード」と思い込んだかもしれません。
 2000年代、いわゆる「HACCP対応工場」のブームは過ぎていきます。いつしか、この「HACCP対応工場」的な表現が聞かれなくなりましたが、2018年前後で、再び「HACCP対応工場」が台頭します。

 
 食品衛生法の改正で、HACCP制度化と営業許可制の変更が規定されました。特に、漬物が営業許可制になり、施設基準を満たさなければならなくなった時、再び「HACCP対応工場」の必要性が報道され始めました。「漬物は零細規模、家族規模での経営が多いので、施設設備の改修ができない。何百万円もかかるので、廃業もやむを得ない」「共同作業場を設置したり、補助金を活用することで、事業を続けることにした」といった報道が見られました。

 

 HACCPとは、食品安全の確保に必要な一般衛生管理を整備して、その上でハザード分析を行い、その結果に応じてCCPを設け、CCPの管理をすることです。どのような施設・設備が必要かは、その現場ごとで異なります。共通の一般衛生管理のやり方も存在しません。ハザード分析も、現場ごとに異なります。HACCPはソフト運用です。「HACCPをやりやすくするハード」は存在しても、「HACCP対応のハード」は存在しません。

 そしてハザード分析を実施して、HACCP計画を考えることは、お金がかかる作業ではありません。計画を立てるだけなら、コストは0円です。強いて言うなら、「ハザード分析の結果を踏まえて、最小限必要なハードを考えるた結果」であれば、「HACCP対応の施設・設備」と言えるかもしれません。
 

 しかし、2021年前後で、中小・零細規模の食品工場を中心に「HACCPで廃業か?」といった報道があったのは事実です。その背景には、改正食品衛生法の猶予期間の間の情報共有が不足していたと思います。

 営業許可制の変更に対する雑感は、別の回でお話しします。