「○○しないとHACCPはできない」という誤解④~CCPは0個でも構わない

更新日時:2025.2.13

4) CCPがないとHACCPにならない

 平成時代には「HACCPでは、CCPは何個くらいつくるとよい?」という質問がありました。答えは「CCPの数は、ハザード分析の結果で決まる」です。そして、0個かもしれないし、5個も6個もあるかもしれません。ここで、ハザード分析の重要性を理解していない人の中には「CCPが無いのに、HACCPとは言えない」と考えてしまう人がいるのです。

 

 ハザード分析で「重大な(significant)食品安全ハザード」がなければ、CCPは不要です。ただし、このハザード分析は、1回やっておしまいではありません。定期的にやり直す、何か重要な変更があったら(例えば「原材料の仕入れ先が変わった」「製造設備を更新した」「作業手順を変更した」など、とにかく食品安全に影響しそうな変更があったら、その都度)ハザード分析はやり直さなければなりません。

 

 著者は「HACCPを義務化する必要はない」という立場です。HACCPを義務化したら、多くの人が「キレイなHACCP計画を作らないと」「HACCP認証を取らないと」「とにかく何でも記録を付けないといけないから、記録用紙を増やそう」といったように、HACCPの構築に走ってしまうと思っているからです。そうして、HACCPの運用や継続的改善よりも、書類や認証を重視する方向に向かい、やがて日本のHACCPが形骸化する、と危惧しているからです。

 HACCPを義務化した背景には、諸外国ですでにHACCPが義務化されていることに加え、2020年に東京五輪の開催が決定したことの影響でしょう。五輪の開催国になる上で、HACCP義務化が必須要件だったのだと思います。

 

 とはいえ、個人的には「義務化するならハザード分析でよかったのでは」というスタンスです。そう主張すると、多くの方から「中小・零細企業、人的リソースの乏しい企業では、ハザード分析は難しい、出来ない」というご指摘をいただきます。

 しかし、自分の製品にどんなハザードがあるか把握していないのであれば、製品を販売する資格はないでしょう。「うちは焼鳥屋なのでカンピロバクターのリスクがある」「うちは生野菜を扱うので、O157について考えておかなければ」といったことは、普段、ニュースを見ているだけでもわかることでしょう。ならば、そのリスクに対策を打つようにすれば、ハザード分析はほぼ完了です。

 ただ、ハザード分析の過程や結果を、うまく書類や書式にまとめるのは難しいかもしれません。世間のHACCP研修で、このハザード分析シートの作成に多くの時間を割きますが、「書式に記入する際の作法」に細かくこだわっている風潮も感じます(もちろん、その「記入の作法」にも理由はあるのですが)。

 

 もし、「独力ではハザード分析ができない」というのであれば、関係者に助けを求めるか、そこで初めて手引書に手を出せばよいのです。それが、HACCPの弾力的運用の一例です。自社のメンバーでハザード分析が難しければ、外部の人にお願いしてHACCPチームに入ってもらう。あるいは、「業界団体の手引書やガイドライン」=「自分たちの代わりに、暫定的にハザード分析を代行してもらった結果」とみなして、手引書やガイドラインを参考にする。

 「暫定的に」と書きました。つまり、ある程度、手引書を参考にしてHACCPを軌道に乗せたら、いずれは自力でハザード分析をやる、という意味です。いつまでも他人任せのまま、食品安全確保に取り組むのは、職業倫理上、不適切と思います。

 

 HACCPの仕組みや書類は簡素化、軽量化しても構わないと思います。しかし、食品安全は、他人の命を預かる仕事です。その仕事が簡単である和ケアがありません。比喩ではなく、本当に他人を幸せにすることも、他人の命を奪うこともできます。

 食中毒の被害を表現する指標の一つに、障害調整生存年(Disability-adjusted life years、DALYs)なんてモノもあります。他人の人生の価値に影響を与えるのがHACCPなのです。軽々しく「HACCPが制度化されても、各現場でやることは変わりません」などと言ってはならないと思います。「やることが変わるかどうかは、ハザード分析をしなければ判断できません」と言うべきではないでしょうか?