更新日時:2025.2.12
HACCPでは「制度化」という言葉が使われています。2016年くらいから「HACCP義務化について議論」という報道が見られるようになりました。それが、いつの間にか「制度化」という表現が用いられるようになりました。「制度化」と「義務化」の違いは何でしょうか? 非常にあいまいだともいます。「罰則がないから『義務化』ではなく『制度化』」なんて話を聞いたこともあります。真実はどこにあるのでしょう?
それはさておき、食品衛生法では、実質的に全ての食品事業者が「HACCPに沿った衛生管理」を実施しなければならなくなりました。
そして、事業者は「HACCPに基づく衛生管理」と「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」に取り組むこととされています。どちらに取り組むかのボーダーラインは「食品取り扱い従事者:50人」のようです。
ただし、「50人」という境目の根拠は、どうにも曖昧と言わざるを得ません。
2018年に改正食品衛生法が公布される前、厚生労働省では技術検討会で議論を重ねてきました。その議論の中で、「事業規模」と「専任の品質管理担当者の設置状況」の調査がされました。そこで、専任の品質管理担当者の配置割合は「食品取り扱い従事者が50人いる事業所では9割、200人以上では10割」という状況が確認されました。著者の知る限り、「50人」の根拠は、これしか知りません。
ただし、「50人未満の場合は『HACCPの考え方を取り入れた衛生管理』に取り組むこと」と捉えるのは間違いです。
50人以上は「HACCPに基づく衛生管理」に取り組まなければなりません。
一方、50人未満は「HACCPに基づく衛生管理」でも「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」でも、どちらでも構わないのです。だったら、「HACCPに基づく衛生管理」に取り組んだ方が、取引先からは「しっかりした衛生管理をしていますね」と信頼してもらえるのではないでしょうか?
でも中小・零細では「HACCPに基づく衛生管理」は難しい? それは違います。ハザード分析を実施して、重大なハザードが見つかった時には、そこに合理的な管理方法を確立できれば、それは「HACCPに基づく衛生管理」です。温度と時間を自動制御・自動監視できる機器が必要が絶対に必要なのではありません。金属探知機が絶対に必要なわけではありません。
そこで大事なのは、「フレキシビリティ(柔軟性、弾力性)のあるHACCPの運用」です。フレキシビリティについては、別途お話します。
ここでは、「業界団体などが作成する『手引書』は、フレキシビリティの一例に過ぎない」「手引書だけが『HACCPの考え方を取り入れた衛生管理』へのアプローチではない。手引書を参考にしないという選択肢もある」とお伝えしておきます。
今回、お伝えしたいのは、「従業員50人未満の事業者であっても『HACCPに基づく衛生管理』に取り組むことはできる」ということです。
そもそも、食中毒の発生リスクが、従事者数で変化するわけがありません。O157やサルモネラ属菌など、重大な食品安全ハザードが考えられるのであれば、従業員数が1人だろうが2人だろうが、CCPのような管理をしなければ、事業者は安心して出荷できないはずです。
どのようなハザードがあり、どのようにハザードを制御するかは、従業員の人数で決まるわけがありません。リスクの大きさは、個々の事業者が評価・判断しなければなりません。
例えば、飲食店が店舗で提供する食事、目の前でお客様がすぐに食べてしまう食事は「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」で十分かもしれません。
しかし、それと同じ料理をテイクアウトや弁当販売する場合、微生物制御の考え方はまったく別物になるかもしれません。そうしたテイクアウトや弁当の安全性を確保するには、「HACCPに基づく衛生管理」でアプローチすることを考える必要があるかもしれません。
もし、自分の会社に「重大な食品安全ハザード」「重大な食品安全のリスク」が想定されるのであれば、しっかりとHACCPの7原則を適用すべきではないでしょうか? もし、重大な食中毒を起こした時に、「『HACCPに基づく衛生管理』を運用していました」「手引書のとおりに管理していました」と説明しても、おそらく取引先や消費者は納得してはくれないでしょう。