更新日時:2025.2.13
食品安全文化(フードセーフティ・カルチャー、Food Safety Culture)は、2008年頃からフランク・イアナス氏(当時ウォルマート、2018~2023年にはFDAに在籍)が提唱した概念です。
しかし、多くの日本企業において、これは革新的な概念ではなかったはずです。日本の国内の食品企業は、食品衛生法や食品安全基本法などを遵守しています。また、食品安全方針を明示したり、消費者や取引先と食品安全や食品衛生について何らかの約束をしている企業も多いでしょう。
いかにトップダウンとボトムアップの双方向で、「食品安全を重視する」という組織の方針・姿勢を全社的に浸透させるか。「食品安全を第一に考える組織風土」を、教育・訓練を通じて、意識づけ、行動変容につなげるか――それが食品安全文化へのアプローチだったと思います。
この考え方が必要になったきっかけとしては、2007年に中国の会社がペットフード(小麦グルテンを含むウェットフード)のタンパク質含有量を上げるためにメラミンを混入し、それにより米国内で多くのペットが死亡する問題が挙げられるでしょう。また、2008年には中国の会社が乳幼児用の粉ミルクに、本来食品に添加されないメラミンを混入したことで、多くの乳幼児が腎疾患を発症するという、重大な食品安全問題が発生しました。
こうした食品偽装(Food Fraud)は、経済的な利益を得ることが目的です。Economically motivated adulteration(EMA)という表現があります。「経済的動機による粗悪化」と訳せばよいでしょうか? 2013年にはイギリスやアイルランドで牛肉製品に肉が混入していることが発覚した問題も起きています。
おりしも、日本でも2007年前後は食品偽装が、数多く報道された年でした。大手洋菓子メーカーが消費期限切れの牛乳をシュークリーム製造に使用、北海道の食肉加工業が原材料(牛肉)を偽装、北海道の菓子製造業が期限表示の付け替え、三重県の菓子製造業が製造日・期限表示の付け替え、秋田県の食肉加工業が廃鶏使用で地鶏名を表示して販売、大阪府の高級割烹が産地偽装、と書けば、思い出す方もいるのではないでしょうか。
日本では、翌2008年には、中国産冷凍餃子を原因とする農薬(メタミドホス)による中毒、2013年には冷凍食品の製造工場の商品から農薬(マラチオン)が検出される問題が発生しました。
ザックリ分けると、食品偽装は経営に関する人が利益を求めた犯罪、食品テロは従業員が不満を爆発させる犯罪です。基本的には、相手の裏をかく行為なので、(基本的には)予測不能です。予測できないものは、基本的にはHACCPでは対処できません。
食品偽装が起こらないためには、食品企業の高い倫理観が求められます。食品テロが起こらないためには、普段から従業員が不満を抱えないような社風づくりが重要です。
いくらHACCPやISO、FSSC 22000などのシステムを作ったり、認証を取得したりしても、結局、それを支えるのはヒトです。認証を取得した食品企業が、食品偽装や食品テロの問題を起こすことは、これまでにも起きていました。「認証だけでは食品事故を防げない」「仕組みや認証では、ヒトの心理まではコントロールできない」という中で生まれてきた概念の一つが「食品安全文化」なのでしょう。
食品偽装対策、食品テロ対策については、別の回で改めてお話します。