更新日時:2025.2.12
惣菜によるボツリヌス食中毒が報道されています。C型ボツリヌス毒素という、食中毒のボツリヌス事例では、珍しい毒素です。
新潟市で「ボツリヌス食中毒」が発生 要冷蔵の容器密封包装された総菜を食べた女性 全身にまひ症状 “ブルーチーズのようなにおい”など《新潟》
https://news.yahoo.co.jp/articles/1e984747a044d4cfe3f6ccd4ce84a2b33738d158
ボツリヌス菌は、真空包装など酸素がないような状況でも生育可能な菌です。「真空包装だから大丈夫」と油断せず、表示されている保管方法や賞味期限に従いましょう。
菌の特徴は下記をご確認ください。
https://www.hokeniryo1.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/micro/boturinu.html
ボツリヌス菌は、土壌や海、湖、川などの泥砂にいる菌です。食中毒の発生は稀ですが、菌はどこにでもいます。
「乳児ボツリヌス菌のリスクがあるので、1歳未満の乳児には蜂蜜を与えてはいけない」という話を聞いたことがあるでしょう。これは、蜂蜜には普通にボツリヌス菌がいる、ということです。除去や殺菌のための有効な手立てがないので、「食べない」しか対策がないということです。
この菌は、増殖すると毒素を産生します。つまり、「増殖させない」が最も有効な対策です。「酸素があると増殖できない」という性質があるので、瓶詰、缶詰をはじめ、密封された食品は、特に要注意です。
「腐敗菌はHACCP計画で扱わない」という考え方
腐敗菌は「HACCPで管理する『重大な食品安全ハザード(significant food safety hazard)ではない」という考え方があります。これは、第一に「腐敗と食中毒は全く異なる現象」だからです。一般的に、「腐敗菌を体内に取り込むと食中毒に罹る」というわけではありません。食中毒に罹るのは、「発症菌量の食中毒菌(あるいは菌が産生する毒素)を取り込んだ時」です。食品が腐敗するくらいの状態だと、そこには食中毒菌がいて、それが発症菌量に到達する、あるいは菌が毒素を産生する可能性が高まります。
この菌が作る毒素は、神経に作用するので、人体にとって非常に危険です。十分に加熱すれば、毒素は不活化できますが、食中毒予防の基本は「君子危うきに近寄らず」です。保管方法や賞味期限の表示を守る、怪しいもの(見た目がおかしい、においがおかしい)は食べない、が安全確保の第一歩です。
勘違いしてほしくないのですが、絶対に「腐敗菌は放っておいて構わない」とは言いません。それは食品事業者として許されないことです。
ここで言いたいことは、そもそも「ヒトは腐った食品を食べない」はずなので、仮に腐敗菌が増殖してしまっても、腐ってしまえば「『この食品を食べてはいけない』という指標になる」と考えることができる――という考え方がある、ということです。
ゆえに、「腐敗菌は(HACCP計画ではなく)品質管理、一般衛生管理で管理すればよい」という考え方が成立する、ということです。
例外的に、腐ったものを食べることはあります。伝統文化として食経験がある「発酵食品」です。「発酵」と「腐敗」は、同じ現象です。違いは、「発酵食品=食べられる」「腐敗=食べられない」だけです。
しかし、今回のように「腐ってるのに食べる」という非常識な行動があると、食品企業の衛生管理の取り組みも、表示制度も、何もかも意味がなくなってしまいます。
食品事業者は「正しい表示をする」、消費者は「表示に書かれていることを守る」というのが、フードチェーンを信頼でつなぐ上で「約束事」です。
食品安全基本法では第9条に、消費者の役割について「食品の安全性の確保に関する知識と理解を深める」と書かれています。その上で、知識と理解に沿った行動、つまり科学リテラシーのある適切な行動をとるべきでしょう。