厚生労働省が2024年の食中毒統計を公表しました~事件数・患者数ともコロナ前の水準に~(2025年3月)

更新日時:2025.5.12

 厚生労働省は3月末に2024年の食中毒統計を公表しました。それによると、2024年は事件数1037件、患者数1万4229人で、前年(2023年)と比較して事件数は16件、患者数は2426人の増加となりました。

 
 食品衛生法が改正された2018年頃から食中毒は減少傾向を見せ、コロナ禍には患者数・事件数ともに過去最少となりました。しかし、それ以降は事件数・患者数ともに増加に転じ、昨年はコロナ前の2019年とほぼ同水準まで戻りました。

 この状況は、HACCP制度化が、本来期待したような効果を発揮していない状況を示唆しているのでは……と危惧されます。

【近年の事件数の推移】
 近年は、事件数の上位はアニサキス、ノロウイルス、カンピロバクターが上位を占めています。

 ノロウイルスとカンピロバクターによる食中毒は、飲食店などで発生すると1件当たりの患者数が多くなる場合があるので、加熱調理の徹底(HACCP管理)と製造環境における交差汚染の防止(一般衛生管理)の両方に配慮することが肝要です。
 アニサキスによる食中毒は、ほとんどが家庭か飲食店で発生しており、ほとんどが患者数1人の事例です。アニサキスは加熱や冷凍が確実な対策となります。新鮮なうちに内臓処理をすること、調理時にしっかり観察することなども有効な対策ですが、アルコールや酢ではアニサキスは死滅しません。

【近年の患者数の推移】
 近年の患者数の上位はノロウイルス、カンピロバクター、ウエルシュ菌などです。これらは1件当たりの患者数が多い傾向があります。ウエルシュ菌のような芽胞菌は、加熱⇒冷却⇒再加熱の温度や時間への配慮が重要です。

 

【患者数500人以上の大規模食中毒】
 2024年に発生した患者数500人以上の大規模食中毒は、大分県で発生した湧水や当該施設で提供された料理などを原因とするノロウイルス食中毒(患者数595人)の1件のみでした。

 2023年には石川県で湧き水を原因とするカンピロバクター食中毒が発生しています。2年連続で湧き水が関与する食中毒が発生したことから、厚生労働省では源泉の管理の徹底を呼びかけています。日本は「水は安全」という感覚がありますが、世界では「使用水の管理」は、重要な一般衛生管理の項目として認識されています。

 

【死者が発生した事例】
 死者が発生した事例は、2件(3人)で、原因はいずれも植物性自然毒(イヌサフラン、野生キノコ)でした。

 

【「製造能力を超えた受注」が関与する食中毒】
 2023年に青森県の弁当屋で大規模食中毒が発生しました(黄色ブドウ球菌、セレウス菌が検出されました)。こうした事件を踏まえて、厚生労働省では「製造能力を超えた受注」に起因する食中毒リスクについて注意喚起を行っています。

 

パンフレット「施設等の能力に応じた食品の取扱いによる食中毒予防」
https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/001428122.pdf

 

【おわりに:HACCPの継続的改善のカギを握る「失敗学」】

 以上、2024年の食中毒の発生状況について簡単に振り返りました。

 食中毒が増加傾向にあるのは、特に飲食店などフードサービス施設で、HACCP制度化が十分に浸透していない状況があるのでは……と懸念があります。

 

 もう1点、気になる点として、大規模食中毒の調査において、原因施設と原因食品は特定されているものの、真の汚染経路まで十分な原因究明ができていない事例が多いように思われます。例えば、先ほど紹介した2023年の青森県の弁当屋の事例では、セレウス菌と黄色ブドウ球菌が検出された、という報告はあったようです。

 しかし、それらの菌はどこから汚染して、どのように食中毒発生に至ったのでしょうか? その原因が究明されなければ、結局は「HACCPをきちんとやりましょう」「一般衛生管理もきちんとやりましょう」といった”総花的な”報告にしかなりませんし、それでは他社が(自社の衛生管理を見直す上で)有効な教訓は得られません。

 近年の食中毒では、このように「真の原因」まで辿り着けていない事例が多いように感じられます。

 

 他社の食中毒は、できれば自社のハザード分析に活用したいところです。他者の経験を「他山の石」にすることは、自社のHACCPの改善において重要なポイントです。いわば「失敗学」こそが、HACCPの継続的改善において、きわめて貴重な情報源の一つなのです。

 厚生労働省をはじめ、食中毒の調査を行う組織には、改めて「食中毒調査」の在り方を見直す時期に差し掛かっているのではないでしょうか?